海外作品原作のアニメ化傾向について
現在、中国/韓国の漫画原作のアニメ化が目に留まるようになってきた。
このことは、ミクロには日本のアニメ業界、マクロには日本のエンタメ業界にとって良いことなのだろうか。
2つの視点に対して、ポジティブ/ネガティブな展望を考察したいと思う。
[アニメ業界]
ポジティブな影響としては、海外企業が日本アニメ制作会社に資本を投入してくれることにあるだろう。
日本のアニメ製作会社は、日系企業に買い叩かれて来た歴史を持つ。そのアニメ制作会社へ仕事が増えることは、とても良いことであろう。
日系アニメ制作会社の仕事が増え、制作会社の取り合いになるようなことが起これば、自然と制作費用の高騰が見込まれるだろう。
よって、日系アニメ制作会社にとっては、海外作品を原作としたアニメ制作はポジティブなこととなる。
制作会社に資金が集まることによって、制作会社側の請負型ではなく企画型のアニメ制作が増えていくことも視野に入るのは大変望ましいことである。
ネガティブな影響としては、アニメ作品の内容がより大衆化していくことが予想されることだ。
これは、従来日本のラノベ/漫画などのニッチ向け作品を支えてきたオタクたちにとって、喜ばしいことではないはずだ。
「より高純度な作品たちがアニメ化されるのだからポジティブなことではないか」、こうした意見は至極まともな意見だ。
しかし、恐るべきは作品の質ではなく、ラノベ/漫画/アニメを支えてきた構造が破壊されることである。
それはどういったことだろうか。
オタクたちは、支え続けてきた作品たちがアニメ化され陽の目を見る日を待ちわびている。一人のオタクは複数の作品に投資し、そのうちの一つでもアニメ化されようものなら、アニメ化されなかった多数の作品を忘れるほどの精神的な充足感を得ることにあるだろう。
その充足感を得る機会が海外作品に奪われてしまうことによって、必然と今まで少数のオタクたちに支えられてきたビジネスモデルが破壊されてしまう恐れがあるのではないだろうか。
ニッチな作品を好む集団だからこそ、オタクと呼ばれてきた。競争が激しくなれば、アニメ化作品のコンペが激しくなれば、より既に評価されている作品ばかりアニメ化されていくことになるだろう。それはまさに、大衆化である。
[エンタメ業界]
漫画/ラノベ/小説のアニメ化は、アニメ制作会社の法外的に安い労働力によって支えられ、それゆえ原作を販売するためのプロモーションの手段として利用されてきた。
しかし、その原作が海外作品になったらどうか。日本国内の漫画/ラノベ/小説に資金が届かなくなり、逆に海外作品へとその資金が行ってしまう。
ただでさえ、インターネットの普及によりマネタイズが困難になっているエンタメ業界において、お金をエンターテイメントに使ってくれる人たちが日本の作品ではなく、海外作品にお金を使ってしまうようになることは、日本エンタメ業界に負のスパイラルを招き入れ兼ねない。
これは、エンターテイメントの投資先を奪い合う戦いだ。製作委員会の方々は、目先のことだけではなく、遠い先の業界の姿を視野に入れる必要がある。
このような流れになったのも、元はといえばアニメ製作委員会がアニメ制作会社を買い叩いてきたことが原因だ。制作会社が生き残るためにビジネスすることは当然である。
上記のようなエンタメ業界全体に負のスパイラルが起こってしまう前に、製作委員会は適正な価格で制作会社に依頼するよう改善されることを願う。
とても国内事業保護を謳う保護関税主義的な発想ではあるが、一つ考える機会を提起するという意味では、これくらいが丁度いいのではないかと思う。